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慢性閉塞性肺疾患(COPD : 肺気腫・慢性気管支炎等)について

慢性閉塞性肺疾患といっても、一般の方はあまりピンと来ないかもしれません。

いくつかの病気が含まれますが、最も有名なのは肺気腫です。

ごく簡単に言えば、肺や気管支が障害を受けることで、徐々に呼吸がしにくくなる病気です。

男性では平成28年の死因で第8位、12649人が亡くなられています。

ただし死因の第3位の肺炎65636人にもある程度含まれている可能性がありますね

専門的な治療が必要な病気であり、呼吸器内科医(呼吸器科の医師)が診療していることが多いでしょう。

経過としては、基本的に徐々に悪くなっていきます。

それにプラスして、感染などの事象を契機として、急性増悪といって突然悪くなったりすることが度々あります。

普段の比較的落ち着いているように見える(が、緩徐な増悪の)印象と、急性期の症状が強く密なる対応が必要な切迫した印象の二面性を持っています。

なお、世界保健機関(WHO)は慢性閉塞性肺疾患を緩和ケア提供が適切な疾患に挙げていますが、緩和ケアの提供は未だ充足しているとは言い難いです(Global atlas of palliative care at the end of life.<英文>)。

 

閉塞性肺疾患の外来緩和ケアのメリット

というわけで、閉塞性肺疾患も緩和ケアが必要である、ということははっきり言ってあまり知られていません。

閉塞性肺疾患や慢性心不全等の外来患者の研究において、外来における緩和ケアの併用は、1)患者さんの満足、2)症状コントロールと生活の質の向上、3)医療サービスの利用の減少、4)肺がんの患者さんでは生存の延長、が認められたとの報告もあります。

Moving upstream: a review of the evidence of the impact of outpatient palliative care<英文>.

緩和ケアにおいては、前もって、状態の変化に応じてどのように対応したり、どこで療養したりするのかを話し合うことを大切な要素としております。

慢性閉塞性肺疾患においても、それは例外ではありません。慢性閉塞性肺疾患は進行性だからです。

一方で、現在の日本の緩和ケア病棟では、慢性閉塞性肺疾患での入院は診療報酬を得ることができず、緩和ケア病棟やホスピスでの入院加療の適応ではありません(ただし肺がんを合併していれば可能)

もちろん、専門家である呼吸器科の担当医が様々なアプローチはしてくれるでしょう。

ただ上述のように、緩和ケアの併用にも意義があることが認められている一方で、現在のがん及び最近加わった慢性心不全に対するのと比べて、まだ普及には遠い印象があります

 

閉塞性肺疾患の症状と具体的な対応策

特に症状緩和の観点から、説明申し上げます。

呼吸困難

閉塞性肺疾患では呼吸困難が問題になります。

呼吸困難に対してはモルヒネなどの医療用麻薬を使用することが、海外のガイドライン等で推奨されています(例えば、American College of Chest Physicians consensus statement on the management of dyspnea in patients with advanced lung or heart disease.<英文>)。

モルヒネなどの医療用麻薬といえば、副作用としての「呼吸抑制」が極めて有名ですが、実際には(特に専門家が扱えば)それを起こすことが稀なのはこれまで度々述べてきました。有名ですが、めったにないのです。

実際、慢性閉塞性肺疾患に対してオピオイド(モルヒネなどの医療用麻薬が作用するオピオイド受容体に因んで名付けられている、モルヒネ等の一群の薬剤の総称)を使用した研究群を分析したものによれば、深刻な副作用を示す明確な証拠の乏しいと示唆されています。

Effects of opioids on breathlessness and exercise capacity in chronic obstructive pulmonary disease. A systematic review.<英文>

呼吸困難に対しては比較的少量のオピオイドで症状緩和されることが知られており、内服モルヒネ換算30mg/日以下の少量では、死亡を増やさないことが別の研究でも示されています。

Safety of benzodiazepines and opioids in very severe respiratory disease: national prospective study.<英文>

その他、慎重に配慮された酸素療法や、特殊なマスクによる非侵襲的陽圧換気法などが行われます。

他にも、緩和ケアの対象となる症状について列挙します。

呼吸困難以外の症状

◎ 咳
難治性の場合は、医療用麻薬の適応が生じます。

医療用麻薬は痛みや呼吸困難だけではなく、咳にも効きます

◎ 痛み
66%の患者が自覚との文献あり(Pain and its clinical associations in individuals with COPD: a systematic review.<英文>)。鎮痛薬で対処します。

◎ 倦怠感

◎ 抑うつ

◎ 不眠

 

家族ケアも必要

がんなどの他の病気と同様に、ご家族のケアも必要です。

慢性閉塞性肺疾患や慢性心不全、がんの患者さん(60歳以上)のご家族等のケア提供者において、負担を感じていなかった割合は実に10%との報告もあります。

Burden in caregivers of older adults with advanced illness.<英文>

日常のことに援助が必要になると、より負担度が増します。

単に医療のことに留まらず、総合的な視点からの支援が必要となります。

 

まとめ

日本ではまだ知られていませんが、緩和ケアの対象疾患として慢性閉塞性肺疾患は有名な病気です。

残念ながら、緩和ケアチームや緩和ケア病棟の適応疾患にまだ入っていないため、介入されている頻度はかなり少ないですが、他の病気と同様に、症状コントロールと生活の質の向上が期待されます。

まだまだ知見は多くないですが、今後の普及が望まれ、苦しむ患者さんとご家族の負担が軽くなることを強く願う次第です。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。